新規事業を成功させるためには「顧客課題の設定」や「解決策の構築」などが重要なのは当然ですが、正しい「顧客課題の設定」が出来て、革新的な 「解決策の構築」できただけでは新規事業は上手くいきません。
新規事業では、社内外の多くの人々を巻き込んで、同じ方向に動いてもらうように働きかけていく必要があります。今回は社外のパートナーや顧客を主なターゲットとしたビジネス交渉術をご紹介します。
特に技術や製品には自信があるけど、ビジネス交渉の経験が足りないと感じている方に参考にしてもらえればと思います。
交渉に入る前に設定すべきこと
交渉に入る前に、「この交渉が決裂したらどうなるか?」「各条件で相手はどのような意思決定をするか?」などを、あらかじめシュミレーションしておくことは極めて重要です。
交渉のゴール設定
交渉には、主に5つのゴール設定があります。
- コラボレーション(Win-Win):相手との関係を良好に保ち、交渉の成果も最大になります。
- 打ち負かし(Win-Lose):相手との関係は悪化しますが、交渉の成果は大きくなります。
- 完全譲歩(lose-Win):相手との関係を良好に保てますが、交渉の成果は小さくなります。
- 妥協(Lose-Lose):相手との関係を維持するかわりに、交渉の成果では多くを求められません。
- 結論先延ばし(Lose-Lose):相手との関係は維持もしくは悪化し、直近では交渉の成果もありません。
もちろん、最も望ましいのは、Win-WInの状態に交渉を着地させることです。
上記のようなゴールイメージを理解した上で、BATNAとZOPAという基本概念について紹介します。
交渉前に、この2つを明確にしておくことで、交渉での選択肢を整理しておくことが出来ます。
BATNA
BATNA は交渉に関する最も重要な古典的概念の一つで「Best Alternative To Negotiated Agreement」の頭文字から、そう呼ばれています。日本語に直訳すれば「交渉で合意することに次ぐ最善の代替案」ということで、「交渉で合意が成立しない場合の最善の案」という意味です。
こちらの言い分が全て通るとは限らないのが交渉です。相手にまったく受け入れてもらえなかった場合、どうするかということを決めておかないと、言い分を主張することはできないでしょう。
たとえば家電量販店で値引き交渉をするとします。例えば近隣の競合店舗で同じ商品がいくらまで値引きできるのか交渉した上で本命の店舗に行けば、「合意が成立しない場合の最善の案」= BATNAは競合店舗で提示された価格となります。
このように、交渉が決裂した場合にどうするかという対処策の中で、最も良いと思われる代替案が、BATNAとなります。
Reservation Value (留保価値)
留保価値というのは、交渉を撤退する基準のことです。もしBATNAを持っていれば、通常はBATNAが留保価値になります。
ビジネス交渉では自分のBATNAは、相手には知られてはいけません。
ZOPA:交渉が成立する範囲
ZOPAは、「合意可能領域」という意味の概念で「Zone Of Possible Agreement」の 頭文字から、そう呼ばれています。
交渉においては、双方が留保価値を持っています。
その留保価値の範囲が重なっていれば、それは「交渉が妥結する可能性がある範囲」ということになります。
図にすると下記のイメージです。
BATNA、ZOPA、留保価値などを中心に交渉の構造を簡単に解説しましたが、実際の交渉では、交渉相手の出方を見なければZOPA(交渉相手のBATNA)を把握することはできませんので、もっと複雑な過程を踏むことになります。
ただし、相場や前例などといったものがありますので、いくら両者がBATNAを明らかにしていなくても、交渉は「相場や前例など」を前提にスタートすることになります。このような「相場や前例など」のことを「参照値」といいます。
先にもお伝えした通り交渉は、Win-WInの状態に交渉を着地させることを目指します。交渉者が妥結点として目指す値を「目標値」といいます。
交渉
交渉では、最初から目標値を相手に表明していくとは限りません。つまり、最初の言い値は、その後の譲歩分を予め織り込んで、目標値プラスアルファの値を言ってみることがあります。こうした行為は、交渉では一般的に見られることで、アンカリング(Anchoring)と呼ばれており、そのようにして表明された点はアンカー(Anchor)と呼びます。
交渉事例
日本郵政が楽天に約1,500億円出資 資本・業務提携
2021年3月に日本郵政はIT大手の楽天に約1,500億円を出資したと発表しました。両社で資本提携・業務提携が合意されました。
この手の交渉だと両者に提携する目的があります。出資金額や比率など両者に留保価値があると思いますが、金額以外に「物流拠点構築」や「DX推進」など提携で得たい価値があり、条件が満たせれば金額的な留保価値が変わることもありえると思います。
- 共同の物流拠点構築
- 共同の配送システム、受取サービスの構築
- 新会社設立を含む物流DXプラットフォームの共同事業化
- 郵便局内での楽天モバイルの申し込みカウンター設置
- 楽天グループから日本郵政グループに対するDX人材の派遣
- 楽天グループによる日本郵政グループのDX推進の協力
金額面でZOPAがないようなケースでも他の条件を交渉材料とすることで交渉合意の妥結点が見つかることがあります。
また、この交渉だとAmazonやヤフー、ヤマト運輸など両社の競合との関係なども影響していると思います。この資本・業務提携が締結できなかった場合に自社だけで物流拠点を構築する場合のコストや両社が提携することでの事業シナジーもあると思うので、そのような提携効果も意思決定の材料にしなければなりません。
関連書籍
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まとめ
今回はビジネス交渉の基本であるBATNA、ZOPA、留保価値を徹底解説しました。
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