新規事業での営業活動は広義にはコミュニケーション戦略の一部となります。コミュニケーション戦略の全体像は別の記事で解説しているので、そちらも確認てください。
今回の記事ではコミュニケーション戦略の中で「法人向けの営業活動」に絞って「営業戦略の立案方法」を解説していきたいと思います。
営業戦略とは
新規事業での営業戦略とは、自社のリソース(人や時間、資金など)を効率よく活用し、ターゲットとなる顧客に自社の製品やサービスの魅力を伝え、 製品やサービス を利用してもらうように仕向ける施策を整理しておくことです。
営業戦略は、一般的に「新規顧客の獲得」から「商談・顧客育成」、そして「クロージングと顧客維持」までを策定範囲とすることが多い。ちなみに新規事業での営業は単に契約を締結することが目的ではなく、初期顧客には、 自社の製品やサービス のファンになってもらい、一緒に育ててもらえるような関係を構築することが理想である。
営業戦略のフロー
まずは営業戦略はコミュニケーション戦略の一部ということです。既存事業では営業単体で戦略を立案することも、ありますが新規事業の場合は製品、サービス企画やコミュニケーション戦略と一体で立案することが望ましいと思います。
コミュニケーション戦略の記事でコミュニケーション戦略のフローを紹介しました。営業戦略のフローも基本的な流れは同じです。
コミュニケーション戦略フロー
既存製品やサービスの営業ではSTEP1の設定は終わっています。しかし新規事業の場合は、営業を担当する人も STEP1 の「ターゲットユーザーの設定」に関与することが望ましいと思います。
またBtoB(Business to Businessの略称で、企業が企業に対して製品やサービスを提供するビジネスモデルのこと)では顧客の課題を洗い出し、整理することも営業担当の役割です。
STEP1:ターゲットユーザーとターゲットユーザーの課題を探す
まずはステップ1では、ターゲットユーザーとターゲットユーザーの課題を探します。このブログでは既に手法をご紹介していますので、そちらをご覧ください。
STEP2:ターゲットユーザーに伝えるメッセージを検討する
ステップ2ではターゲット顧客に伝えるメッセージを検討します。既存組織での営業職は「伝えるメッセージ」は整理さらた状態であることが多いと思います。
企画担当者が定義した魅力をもとにして提案書などに落とし込むことはあっても、「何を伝えるか」を1から定義したことがある営業は多くはないと思います。
最初は戸惑うかもしれませんが、新規事業の営業担当が「 何を伝えるか 」を決めることから参加することは、新規事業に必要だと思いますし、優秀な営業経験者が能力を発揮できる役割だと思います。
ちなみに私も営業経験者ですが、私が 「 何を伝えるか 」 を整理する時に活用するフレームワークが「手書きの戦略論」で紹介されているクリエイティブリーフです。
クリエイティブリーフは広告のフレームワークですが新規事業開発でのコミュニケーション戦略でも活用できます。コミュニケーションは広告に限定したものではないですがクリエイティブリーフはターゲットユーザーに伝えるメッセージを整理するのに有効なフレームワークとなります。
クリエイティブリーフ
参考:手書きの戦略論
コミュニケーションの目的
まずはコミュニケーションの目的を設定します。通常の営業活動では売上目標を達成することが目標であり目的となっていることが多いと思いますが、新規事業の初期におこなう営業活動では企画している(もしくはリリースした)解決策(製品やサービス)がターゲット顧客の課題を解決することが出来るのか?解決したことに対して料金を払ってくれるのか?などを確認することを目的とすることの方が意義があるケースもあります。
プロポジション
プロポジション(proposition)とは提案のことです。新規事業開発ではリーンキャンパスというフレームワークでUVP (Unique Value Proposition=独自価値の提供)を定義したりします。
※下記で独自価値=Unique Valueとしている部分
またBtoB型の営業活動では実際に製品やサービスが提供する直接的な価値だけでなく、製品やサービスの導入を決裁する部署や役割の方にとってのメリットや逆にデメリットも意識しておかないと、いくら良い製品・サービスでも導入してもらうことはできないでしょう。
ターゲットユーザー(ターゲット顧客)
BtoB型の営業活動ではターゲットユーザーと提案対象が同じではないケースもあります。例えば人事向けのSaaS(サース:Software as a Service=サービスとしてのソフトウェアのこと)を営業する場合に、人事部門に直接営業できるとは限りません。仮に人事担当に提案ができるとしても業務で実際に使うであろう実務者ではなく人事システムの選定を行う担当者への提案になったりします。特に大企業の場合は役割分担がなされており、実際に業務で使う人に直接提案ができるケースの方が少ないのではないでしょうか?
ですからBtoB型の営業活動では
- 実際に製品/サービスを利用してくれるユーザーは誰か?
- 提案できる対象は誰か?
- 製品/サービスを導入することを決裁するのは誰なのか?
などを明確にしておくことが必要です。そして、それぞれが別々の価値基準で製品/サービスの導入や利用をすることを理解しておきましょう。
またBtoB型の営業活動では
- どの業界向けの製品/サービスとするのか?
- どのような規模の会社向けの製品/サービスとするのか?
- どの職種向けの製品/サービスとするのか?
- エリアはどうするのか?
なども明確にする必要があります。例えば小売業と製造業では業務フローが違ったりしますし、会社の規模によっても違いがあります。また対象職種を限定した製品やサービスもあります。
また営業戦略ではエリアの検討も重要です。コロナ禍で営業提案がZOOMなどのオンラインツールを活用できるケースも増えましたが、提案活動を対面でおこなう場合はエリアを限定しないと、リソースを効率的に活用することができなくなってしまうので注意が必要です。
信じられる根拠
信じられる根拠(Evidence)を用意します。検証結果データやアンケート結果、権威がある方の推薦などが該当します。映画のプロモーションで良く使われる「全米が泣いた」なんかも先行公開されたアメリカで観た人の多くが感動したって信じられる根拠(Evidence)になっています。
ちなみにBtoB型の営業活動では業界の大手企業などが導入していることが「信じられる根拠」となることがあります。ですから、製品/サービスが企業規模に関係ないとしても「信じられる根拠」として活用するために最初に業界の大手企業に導入してもらえるように営業することもあります。
ただし大手企業は意思決定プロセスも複雑で提案難易度は高いため、最初は中小規模の会社への導入を優先して、導入企業数や利用ユーザー数などを「信じられる根拠」とするなどもあり得ると思います。
ユーザー課題と提供する価値
こちらは新規事業開発では整理が終わっているかと思います。詳しくは新規事業を立ち上げるプロセスの【STEP1】「顧客課題を探す」、【STEP2】「課題の解決策を検討する」で解説しています。
トーン(どんな雰囲気で伝えるか?)
どんな雰囲気で自社の商品・サービスを紹介するのかを整理します。「楽しい感じ」「権威が感じられる」「危機感を煽る」など伝える雰囲気を決めます。営業活動では提案書のコンセプトを整理することになると思います。
コンシューマーインサイト(人を動かす心のツボ)
コンシューマーインサイトは「顧客の無意識な本音」のことですが、クリエイティブリーフでは顧客に「自社の商品・サービス」を選んでもらう上での顧客の行動や思惑、それらの背景にある意識を見ぬいたことによって得られる「購買意欲の核心やツボ」のことです。 BtoB型の営業活動では製品/サービスの実際の利用者だけでなく、製品/サービスの導入を決裁する部署や決裁者の「導入決定の核心やツボ」を整理する必要があります。
製品/サービスの実際の利用者が抱えている課題を解決できる製品/サービスだとしても、それによって「コストが下がる」や「売上が増える」など組織としてもメリットがなければ導入を決裁する部署や決裁者は導入を決めてくれません。
STEP3:ユーザー(顧客)との接点を設計する
顧客との接点を設計します。営業活動では対象顧客の業種、企業規模、エリアなどが決まったら、それらの企業にどのようにアプローチするのか手段を整理します。主なアプローチ手段としては下記の5つがあります。
飛び込み営業
私の印象では営業担当者の体力・精神力を最も必要とするアプローチ方法だと思います。ただエリアを限定したβ版サービスで特定エリアの飲食店にアプローチしたいなどの場合は、エリアにある飲食店に直接行ってしまうのが効率的な時があります。
しかし提案相手の時間を強制的に使わせてしまうので、相手目線で提案の時間帯なども考える必要があります。例えば飲食店向けの営業では「ランチタイム」「ディナータイム」などの繁忙時間帯には訪問しないなど最低限の配慮が必要です。
電話営業
飛び込み営業と比較すると効率的ですが長時間のプッシュ型電話営業は精神力が必要です。基本的には「断られる」前提での営業活動ですので、新規事業では、どうしても提案したい企業に絞って実施するケースが多いと思います。
ただし電話営業も提案相手の時間を強制的に使わせてしまうので、相手目線で提案の時間帯なども考える必要があります。
メール営業
ターゲット企業のホームページなどで「問い合わせ」用のメールアドレスや問い合わせフォームなどを活用してアプローチする方法です。
飛び込み営業や電話営業と比較すると提案相手の負担は軽くなりますし、営業担当の体力や精神への負荷も軽いアプローチ手法です。
またベースになるメール文面を作成してしまえば、営業担当の技量による差はありませんので、非常に効率的な アプローチ手法です。
セミナー営業
1社1社提案活動をするのではなく複数の顧客を集めて営業するアプローチです。最近ではオンラインセミナーなどもおこなわれており、効率的な営業アプローチと言えます。
ただしセミナーだけでクロージングすることは難しいため、セミナーで興味を持ってくれた顧客には個別に営業提案を行う必要があります。
またセミナーへ集客をする必要がありますのでセミナー営業への集客を初期アプローチのゴールとして電話営業やメール営業をおこなうこともあります。他の集客手法としては既存事業の顧客へのメール送信やホームページでの告知、あとは広告出稿なども有効な手段となります。
プル型営業
セミナー営業での集客でもご紹介したホームページでの告知や広告出稿などで、問い合わせに対応して営業するのがプル型営業です。顧客が自発的に興味を持ち、問い合わせなどの行動をおこしますので、問い合わせを受けてからの成約率は他の営業アプローチと比べて高くなります。
ターゲットとする顧客に自社の製品やサービスを認知して、問い合わせなどをしてもらう経路の整備ができれば、とても効率の良いアプローチと言えます。
ただしプル型営業では、営業提案をしたい相手をピンポイントで獲得するのは難しいため、他の営業アプローチと組み合わせる必要があるかもしれません。
ターゲット顧客に自社の製品やサービスを認知してもらう方法としては「新規事業でのコミュニケーション戦略を徹底解説!」 で詳しく紹介しましたが「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」などがあります。
STEP4:各アプローチ手法ごとに伝え方を検討する
アプローチの方法ごとに、製品やサービスの魅力をどのように伝えるのかを考え必要なツールを整えます。
具体的には「飛び込み営業」であれば訪問時に何を伝えるのか?飛び込み営業の場合は最初の10秒で伝える内容で、時間をとってもらえるのかが決まります。また、訪問時に提案を聞いてもらう時間をもらえない可能性もあります。A41枚程度の提案シートなどを用意して、初回訪問時は相手の連絡先をもらったり、次回のアポイントをもらったりすることをゴールとしても良いと思います。
次に電話営業の場合は「トークスクリプト(電話営業の台本)」を用意します。こちらから一方通行的に話をするのではなく、相手から質問がありそうなことを想定して、想定問答集的な内容も用意します。
メール営業の場合はメールに書く内容を用意します。飛び込み営業や電話営業とは違い、伝えたいことを、全て書くことができます。(読んでもらえるかは別ですが)
営業メールを読んでもらうための工夫
- 件名を工夫する!
- ありきたりなタイトルだったり、担当者の興味を引くことができなければ、メールは即「ゴミ箱」行きです…(悲しいですが現実です)
- ポイントは「自分にとってメリットがありそうだ」と思ってもらえることです。
- 例:【人事部ご担当者様向け】辞退率削減サービス初期費用無料キャンペーンのご案内 株式会社ほげほげ 坂本
- メール文頭に個人名を入れる
- メールリストを作成する際に担当者の名前がわかっている場合には、メールの文頭に個人名を入れます。メールの差し込み機能などを使って形式的に入っているだけでも、相手の名前が入っていると開封してもらえる可能性は高まります。
- 送信時間を工夫する
- 読まれやすい時間帯を考えて送ります。具体的には月曜の午前中などは会議などが開催されるケースが多く、忙しい人が多い印象があります。逆に金曜日の午後以降は休みモードで仕事のメールを真剣に読んでもらえない印象があります。私は火、水、木の午前中に送るようにしていました。(対象業界によって差があると思います、曜日や時間を変えて開封率などを計測してみるのも良いかもしれません)
セミナー営業やプル型営業では、ペイドメディア・オウンドメディア・アーンドメディアの活用が重要です。広告素材やSNSなどの投稿素材を準備したり、ランディングページを作成したりします。
またセミナー営業やプル型営業では、顧客に時間をとってもらっての営業活動ができますので、セミナー資料や提案書などを準備します。
STEP5:実行と評価
ステップ4まで整理ができたら目標と予算を設定して評価するための指標を決定します。
例えば飛び込み営業であれば
- 訪問件数
- 商談件数(しっかりと営業提案できた件数)
- 契約件数
などの数値を目標として設定します。
例えば「訪問件数は目標通り実行できているのに、商談件数が目標の半分にもいかなかった」場合であれば「訪問時のトーク内容に問題がある」や「対象としている顧客層が合っていない」などが考えられます。逆に商談はできているのに契約件数が足りない場合は「商談資料やトーク内容に問題がある」などの原因が想定できます。
このように営業活動を評価するための指標を決めておいて、次の打ち手を常に考えられるようにしておきます。
まとめ
今回は、コミュニケーション戦略の中で「法人向けの営業活動」に絞って、「営業戦略の立案方法」を解説しました。
大手企業だと営業活動を外注したり、代理店を募って営業してもらうこともありますが、新規事業の初期営業はプロジェクトメンバーが直接おこなうことが望ましいと思います。
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