新規事業を立ち上げるプロセスの【STEP4】は「新規事業でのTAM、SAM、SOM※の試算方法」です。※TAM、SAM、SOMの意味などは後程、詳しく説明します。もともと【STEP4】は「新規事業での調査・分析のやり方」を解説するつもりでしたがSTEP4での調査・分析がTAM、SAM、SOM算出が目的だったので修正しています。
ここまで【STEP1】で「顧客課題を探す」、【STEP2】で「課題の解決策を検討する」、【STEP3】で「仮説検証のやり方」を学んできました。
今回は新規事業での調査・分析のやり方を徹底解説したいと思います。
新規事業での調査・分析
【STEP3】でご紹介した「仮説検証」も調査はミクロな視点での調査ですが今回ご紹介する市場機会の調査はマクロ視点での調査となります。
【STEP3】の「仮説検証」では顧客を個と捉えたミクロ視点での調査を中心におこなってきました。【STEP4】での調査はマクロな視点での調査になります。
新規事業での調査の視点
調査目的
目的1:役員や投資家の承認や出資を受ける材料を揃える
【STEP4】での調査の目的は検討中の新規事業が狙う市場規模を捉えることです。「新規事業なんだから今は存在しない市場を狙うのだ」との声を聞くことがありますが社内での新規事業なら役員などの決裁権者、スタートアップなら投資家に対して、自分たちが狙っている市場に関して客観的な視点で分析した結果を論理的に説明できないと承認や出資を受けることは難しいと思います。
承認や出資を受ける上では
「現時点で一定以上の市場規模がある」
もしくは
「非常に成長性が高く(高くなると想定できる)ため近い将来、一定以上の市場規模になる」
など役員や投資家の承認や出資を受けられるように説明する材料をつくるための調査でもあります。
目的2:マクロな視点で事業と向き合うことができる
あと市場のことをマクロな視点で見ていると参入に適したユーザー群を見つけたり、課題の解決策を思いついたりすることがあります。
虫の目/鳥の目
人の視点のあり方を「虫の目」「鳥の目」と表現する場合があります。
虫は、小さな生き物ですので、草木や地面などに近い低い位置にいるからこそ、高い所からでは見えないことを見ることが可能です。
新規事業の立ち上げでは、とにかく顧客の視点を大切にすべきです。なのでユーザーインタビューやユーザー観察、MVPでの検証などサービス提供の現場での事象を「虫の目」で捉えることは大切です。
逆に鳥は、高く飛ぶことができますので、広い視野でもって全体を見渡すことが可能です。
新規事業でも、この「鳥の目」で事業だけでなく市場全体を俯瞰的に捉え、その上で事業のことを考えられるようにする視点も大切です。
TAM、SAM、SOMとは?
「新規事業での調査の視点」でミクロ視点とマクロ視点の下に「TAM」「SAM」「SOM」と書かせてもらいました。
TAM、SAM、SOMは市場規模を表す指標で、これらの指標は役員や投資家へのプレゼンテーションなどで活用できます。マクロ視点での調査・分析では「TAM」「SAM」「SOM」の算出をおこないます。
TAM(タム)とは?
プロダクトの直接的な競合の総需要のみでなく、同じニーズを満たす代替品となるようなサービスの市場規模も含めた獲得できる可能性のある最大の市場規模です。
具体例として、『日本国内におけるオンライン家庭教師事業』についての事例で考えてみると、TAMを国内における家庭教師市場だけでなく、より大きな塾/予備校市場や通信教育市場も足し合わせた市場と捉えることができます。
SAM(サム)とは?
TAMで例として挙げた、『オンライン家庭教師事業』について考えてみると、TAMとして設定した家庭教師市場+塾/予備校+通信教育の市場規模のうち、家庭教師市場と個別指導塾市場をSAMとして設定することができます。
TAMで設定した市場規模の中で、SAMでは、自社商品・サービスの特徴や設定したターゲットを考慮したうえで、実際にアプローチできる市場規模を選ぶことが大切だと思います。
SOM(ソム)とは?
SOMは、足元の市場や対面市場とも称されます。リリース予定の商品・サービスの当面の売上目標とも言えます。
『オンライン家庭教師事業』考えてみると、SOMは、獲得可能な顧客数×想定単価で表せるかもしれません。
尚、TAM、SAM、SOMを包含関係で下図のように捉えると分かりやすいと思います。
TAM、SAM、SOMの算出方法
TAM、SAM、SOMの算出方法には、大きく分けると2種類あります。マクロな視点から考える「トップダウンアプローチ」とミクロな視点から考える「ボトムアップアプローチ」です。それぞれ解説していきます。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチは関連する市場規模の数字から試算する手法です。
この市場規模は政府による調査データやシンクタンクやリサーチ会社出されている市場規模レポートなどを参考にします。市場寡占度が高い業界であれば主要企業の売上を足し合わせて試算することも可能です。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチでは、まず顧客数×単価から試算します。
顧客数の試算では新規事業で解決を目指す課題を持っている人がどれくらいいるのかを試算します。既存事業者の顧客数、顧客の属性(年代や性別)、対象エリアの人口分布などを調べながら自分たちが課題を解決できる総数を試算します。
次に単価の試算ではWTP (Willingness to Pay:支払意思額)をアンケート調査やユーザーインタビューなどで特定していきます。
フェルミ推定を用いる
ボトムアップアプローチで役に立つのがフェルミ推定です。フェルミ推定とは仮説立てをして、論理的に推測することです。
フェルミ推定とは
フェルミ推定とは、実際に調査することが難しいものや特定することができないものなどを理論を用いて推測し、短時間で概算するのことです。ただし試算する上での基本数値は押さえておく必要があります。
フェルミ推定を解くのに知っておきたい数値
項目 | 概算値 | 参考データ |
日本の総人口 | 1億2,500万人 | 国勢調査 |
世帯 | 4,900万世帯 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
国土面積 | 約37万8,000万km2 | JICE「以外に大きい日本の国土」 |
可住地 | 約30% | JICE「低地に広がる日本の都市」 |
平均寿命 | 84歳(男性81.41歳、女性87.45歳) | 厚生労働省「簡易生命表(基幹統計)」 |
労働力人口 | 約6,600万人 | 総務省統計局「労働力調査 調査結果目次(全国結果)」 |
平均給与 | 433万円 | 民間給与実態統計調査結果 |
1年の出生数 | 約87万人 | 厚生労働省「人口動態統計」 |
大学進学率 | 約54% | 文部科学省「令和元年度学校基本調査(速報値)の公表について」 |
大企業の数 | 1.1万社 | 中小企業庁「中小企業の企業数・事業所数」 |
中企業の数 | 350万社 | 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数」 |
現在の市場規模だけでなく未来の市場も意識する
市場規模を算出したら、その市場が今後のテクノロジーの進化や政治、社会情勢、生活様式の変化などで成長する市場なのか?縮小する市場なのかも意識すると良いでしょう。
例えば『オンライン家庭教師事業』では子供向けだけだと少子化の影響は免れません。しかしリカレント教育(就職した後に再び教育機関で学び直すことや、仕事と学習を繰り返す教育システムのこと)への関心の拡大、新型コロナウイルスなど感染症対策としてのオンライン学習の拡大と言った社会情勢、生活様式の変化から新たな市場としてTAMやSAMを捉えると魅力のある市場にも見えると思います。
市場定義事例(Airbnb、freee)
TAM・SAM・SOMの理解を深めるためにスタートアップ企業の実例を見てみましょう。
AirbnbのTAM・SAM・SOM
Airbnbは2008年にAirbnbのTAM・SAM・SOM下記の通り定義しています。
出典:SlideShare:Airbnb Pitch Deck From 2008
- TAM(左) = 世界中の旅行予約の市場規模
- SAM(中央) = オンラインの低予算旅行予約の市場規模
- SOM(右) = 実際にAirbnbで予約された金額
Airbnbはオンライン宿泊(いわゆる民泊)予約サービスなので、TAMは世界の旅行予約の市場規模としています。
SAMは、オンラインの低予算旅行予約の市場と定義しています。
SOMは「Share of Market」で実際にAirbnbで予約された金額を市場規模として示しています。
freeeのTAMとTAM拡大の視点
マザーズ上場企業の『freee』の事例は「TAM」と「更なるTAM拡大の可能性」を下記の通り定義しています。
freeeはTAMを会計フリー +人事労務フリーの潜在的市場規模の1.1兆円と示していますが、「更なるTAM拡大の可能性」として、2.5兆円の「国内中小企業のIT支出」と、30.4兆円の「国内中小企業バックオフィス市場」としています。
まとめ
今回は「新規事業でのTAM、SAM、SOMの試算方法」を事例などを紹介しながら徹底解説させていただきました。
新規事業では役員や投資家などに「この事業は良い」と思わせなければ承認や出資は得られません。また事業や市場を俯瞰してみることで新たな気づきが得られることもあります。
是非、何度も読み返して活用してもらえたら嬉しいです。
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