新規事業を立ち上げるプロセスの最終回『STEP8』は評価指標の解説です。
今回は新規事業で有効な評価指標(KPI/CAC/LTVなど)を徹底解説したいと思います。
KGI/KPIとは?
既存事業の場合は「KGI」と「KPI」を指標として事業を管理などをしているケースが多いのではないでしょうか?
「KGI」とは、「Key Goal Indicator」の頭文字をとった言葉で日本語だと「重要目標達成指標」と訳されます。ビジネスの最終目標を定量的に評価するための指標です。売上高や利益などがこれに当てはまります。
「KPI」とは、「Key Performance Indicator」の頭文字をとった言葉で日本語だと「重要業績評価指標」と訳されます。KGIを達成するための各プロセスが適切に実施されているかどうか定量的に評価するための指標です。顧客数や顧客の売上単価など「KGI」を変動させる要素を分解した指標です。
新規事業立ち上げ時の評価指標とは?
新規事業の立ち上げでは先行投資をし、その後、時間をかけて利益を回収していくので初期のPLは赤字になる傾向があります、その状態で顧客獲得を続けると、赤字が続いてしまいます。
しかし、中長期で儲かることが分かるのであれば、現状赤字だとしても顧客の獲得は進めた方が良いという判断ができます。
つまり「中長期目線で儲かる事業モデルである」ということを根拠を持って説明できるようにして事業を推進する必要があるわけです。
ですので既存事業のように売上高や利益などを「KGI」として設定してから「KPI」を決めると正しい判断ができないケースが出てしまいます。
そこでスタートアップや新規事業で使用される評価軸がユニットエコノミクスです。
ユニットエコノミクスとは?
ユニットエコノミクスとは、顧客1人当たりの採算性を表す指標です。
顧客1人の生涯価値(LTV=Life Time Value)から顧客1人当たりの獲得コスト(CAC=Customer Acquisition Cost)を引き、プラスになっていればユニットエコノミクスは健全と言えます。
単に「LTV > CAC」を見るだけでなく、比率で表すことによって、ある特定の時期の状況を取り出して、他の複数の状況と比較しやすくすることができます。
そこでLTVをCACで割った指標をユニットエコノミクスの指標と考えます。ユニットエコノミクスは以下の数式で算出することができます。
LTV(Life Time Value)とは?
LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)は「顧客生涯価値」とも言われ、1顧客が生涯にわたって生み出す粗利の合計のことです。
毎月、売上が上がるサブスクリプションモデルの場合は以下の数式で算出することができます。
CAC(Customer Acquisition Cost)とは?
CAC(Customer Acquisition Cost・カスタマーアクイジションコスト)は「顧客獲得コスト」のことで、新規顧客を1社獲得するためにかかったコストを意味します。
「コミュニケーション戦略」でも紹介した下記のユーザー接点で言えばペイドメディア費用や営業費用などを、新規顧客獲得数で割ると算出できます。逆にオウンドメディアやアーンドメディアで顧客が獲得できるとCACが低くおさえられます。
新規事業でのKPI活用法
KPIには、大きく分けて「アウトプット」と「インプット」の2種類のKPIが存在します。「アウトプットKPI」は、売上や利益、顧客数といった「結果のKPI」です。それに対して「インプットKPI」は、そのアウトプットを出すために何をすればいいかという「具体的なアクションのKPI」のことです。例えば「契約社数を増やす」というKPIは「営業件数」×「契約歩留まり」になりますが「営業件数」が「インプットKPI」になります。
事業を開始したら、KGIを達成させるためのアクションを検討してインプットKPI化します。あとはインプットKPIを目標通りに実施した際に、アウトプットKPIとどのように連動するのかを検証します。何らかのアクションを実施した際にアウトプットKPIが想定通りの数値になれば、施策が正しかったことになりますし、しなければ施策に課題があることになります。その場合、インプットKPIを見直すか、施策を改良することなどが求められます。
新規ビジネスを立ち上げ、スケールさせるのは、「正しいインプットKPIを見つけ」「アウトプットKPIで効果を検証する」の繰り返しになります。
KPIで事業数値と各施策をウォッチするのに適したツールにKPIツリーがあります。
KPIツリーとは?
KPIツリーは、KGIという組織や企業の大目標を頂点として、大目標実現のために構成されたKPIとの関係性を、ツリーの形状を使って可視化したものです。
新規事業ではKGIは結果の数字としてウォッチしますがKPIの方が重要だと思います。まずはユニットエコノミクスがバランスが取れる状態を達成するため適切なKPIを設定して、KPIツリーの下部に位置する具体的なKPIから課題を考察すれば、施策の検討や実行にも有効です。
下記にKPIツリーのサンプルを用意してみました。KGIはLTV/CACが3以上になることだと設定します。その場合にLTVを高めるか、CACを下げるかの選択肢があることがわかります。※この例では原価の中にCACのコストも含まれてしまっていますが、できるだけMECE※(モレなく、ダブりなく)に分類することを意識します。
新規事業で活用できる指標
ここまで紹介したユニットエコノミクス系の指標以外にも新規事業で活用できる指標があるので紹介します。
ROAS
ROASとは「Return On Advertising Spend」の頭文字を取った略語で、日本語では「広告の費用対効果」という意味になります。広告費に対してどれだけ売上として見返りを得られたかを表す指標です。広告費1円あたりの売上額を知り、広告費用の回収率を知ることができます。ROASが高いほど広告の費用対効果が高いということになるため、ROASの高い広告の予算配分を高くしたり、入札価格を上げたりするなどして活用できます。
コストの中で集客コスト比率が高い事業(インターネットサービスなど)の拡大期などに活用される指標です。ちなみにユニットエコノミクスはLTVが初期にはわからない(顧客が生涯にわたって生み出す粗利がわからないため)こともあるのでROASも意識するようにしていました。
ROASの計算方法
ROASは以下の数式で算出することができます。
例えば、100万円の広告費に対して500万円の売上があったなら、500万円÷100万円×100=500%というROASの数値が算出できます。ROASは100%を基準にして、どれだけ広告費を回収できたかを判定することが可能です。そのため、この計算では広告1円に対して5円の利益を上げていることがわかります。一方、広告費100万円に対して50万円しか売上が上がらなかった場合、50万円÷100万円×100=50%と費用対効果が悪いことが判断できます。
ROI
ROIとは「Return On Investment」の頭文字を取った略語で、日本語では「投資利益率」という意味になります。初期投資が大きい事業などではユニットエコノミクスやROASを追っているだけだと判断を間違えてしまうことから初期投資が大きい事業では重要な指標だと思います。
ROIは以下の数式で算出することができます。
PUU/ARPPU/ARPU
まとめ
今回は「新規事業で有効な評価指標(KPI/CAC/LTVなど)」を徹底解説させていただきました。
新規事業の撤退条件を決めておく
新規事業の場合、事業が計画通りに進まず撤退をするということは十分に想定できます。事業開始直後には撤退条件を設定しておくことも重要です。特に大企業の新規事業の場合は事業継続可否を決裁できる責任者と握っておかないと、やっとユニットエコノミクスでバランスが取れたのに事業をクローズする判断が出てしまうことなどもあります。
また日頃から事業継続可否を決裁できる責任者に情報(良い情報も悪い情報も)を伝える場を意識的につくるようにしておくことも重要です。
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