ここまで【STEP1】で「顧客課題を探す」、【STEP2】で「課題の解決策を検討する」、【STEP3-1】で「仮説検証のやり方」、【STEP4】で「市場機会の設計」を学んできました。
今回は新規事業を立ち上げるプロセスの【STEP5】「経営層を納得させる事業企画書の極意」を解説したいと思います。
事業計画書とは?
事業計画書とは、起業家や事業発案者などが、どのように事業を展開していくのかを可視化した資料です。投資家や金融機関、社内新規事業の場合は役員などは事業計画書に書かれた内容から事業の成長性などを予測し、出資や融資、事業化を決定する際の判断材料として活用します。事業計画書の作成者も頭の中にあるビジネスプランや資金計画を事業計画書として整理することで、それまで曖昧だった部分が明確になり、準備すべきものが具体的に見えるという効果もあります。
また「この人なら実現できそう」「説得力がある」と思わせる事業計画が準備できると出資者や役員などから出資や事業化の承認が得られるだけでなく事業の協力者となってもらうことのできるツールでもあると言うことです。
事業計画書に求められること
事業計画書では「誰の」「どのような課題を」「どのように解決するのか」「その事業でどのように収益を上げるのか」「どれほどの収益が見込めるのか」「どのように収益を見込んだのか」など説明する必要があります。
事業計画書作成の前に
事業計画書を作成するための材料は【STEP1】「顧客課題を探す」、【STEP2】「課題の解決策を検討する」、【STEP3-1】「仮説検証のやり方」、【STEP3-2】「市場機会の設計」で揃っています。
しかし事業計画書を作成する前に確認しなければならないことがあります。
提案する相手の興味関心や重視していることなどを調べる
事業計画書の作成は作成者の頭の中を整理する効果はあるものの主たる作成の目的は出資者や役員などから出資や事業化の承認を得ることです。
ですから提案をする相手によって書き方や見せ方をアレンジすることで同じ事業提案でも結果が違うことがあります。
事業のビジョンや夢や将来性などを重視するタイプなのか、収益性や事業規模など数値を重視するタイプなのかによって事業計画書で強調しなければいけない点が大きく変わります。
学校の試験ではありませんので事前に調査すればわかるなら、提案をする相手のことを徹底的に調べます。相手のことを知ることで結果は大きく変わると思います。
事業計画書の書き方
事業計画書には決まったフォーマットはありません。また同じ事業計画書でも相手によって項目を並び替えたり入れ替えたりします。重要なのは、「誰の」「どのような課題を」「どのように解決するのか」「その事業でどのように収益を上げるのか」「どれほどの収益が見込めるのか」を説明できる内容が含まれているかだと思います。
事業計画書の構成例
- メンバーのプロフィール・強味
- ビジョン・理念
- 事業背景(事業環境の変化など、なぜ今その事業に取り組むのか?Why now?)
- 事業概要・ビジネスモデル
- 想定する顧客と課題
- サービスや商品の強み・特徴(UVP)
- 仮説検証で得られた学び
- TAM・SAM・SOM
- 競合について
- 勝ち筋について
- 販売やマーケティング戦略
- 生産方法・仕入先など
- 収支計画
- 資金調達に関する計画※社内新規事業の場合は予算と使用計画など
項目1:想定する顧客【必須】
【STEP1】の「顧客課題を探す」で整理した想定顧客層と、細分化した市場の切り口を説明します。ペルソナ(設定した課題と解決策の恩恵を最も受けるであろう理想の顧客(架空)のこと)やカスタマージャーニーマップや共感マップなどで顧客理解ができていることが伝えられると良いと思います。
項目2:顧客の課題【必須】
「顧客の課題」も【STEP1】の「顧客課題を探す」で整理した顧客が「不便」「不満」「不安」を感じているペインポイント(お金を払ってでも解決したいポイントのこと)を説明します。ユーザーインタビューで得た顧客の声や、ユーザーアンケートで得られたデータなどもあると説得力が出ます。
項目3:ビジネスモデル
人、モノ、情報、お金などの流れをまとめ、どのように課題を解決するのか、どのタイミングで誰からお金を得るのか、などの仕組みをまとめます。ビジネスモデルを説明する際には、自社、顧客、重要なパートナーなどを図示し、人、モノ、情報、対価(お金)とその流れを説明します。矢印などで図示すると分かりやすくなります。
検索サイトの例
項目4:収支計画
新規事業の事業計画書では収支計画は必須項目だとは思いますが、それほど重要ではないと感じます。事業開始前の事業計画書での収支計画では売上や費用を要素分解してビジネスの変数を設定します。要は売上や費用、利益に重要な要素を洗い出して収支シュミレーションをします。
項目5:TAM、SAM、SOM
新規事業で市場規模が小さいとなると、事業が計画通りに成長してもアップサイドも小さいと判断されてしまい、投資や事業化などの承認が得られる可能性が減ってしまいます。
市場規模が十分に大きいとしても、説明可能な根拠が伴っていない場合にはかえってネガティブな印象を与えてしまうこともあるでしょう。ですから、大きい市場を選んだ上で、市場規模をきちんと理解し、根拠立てて提示できることが重要です。
項目6:勝ち筋
勝ち筋とは、勝利への筋書き・勝つための重要なポイント・成功要因、勝利条件のことです。勝ち筋には大きく分けると、2つの種類があります「競争ルールを整理・理解して、そのルール下での自分たちの勝ちパターンをつくる」もう1つは「そもそもの競争ルールを変える」です。
競争ルールを整理・理解して、そのルール下での自分たちの勝ちパターンをつくる
PCメーカーのDELLは、それまでのPCメーカーが小売店、量販店を介してPCを販売していたのをDELLは、顧客からのオーダーを受け、その要望に合わせて外部サプライヤから部品を調達して、カスタマイズした製品を生産、流通/小売業者を介さずに直接販売するモデルで急成長しました。
そもそもの競争ルールを変える
「ぐるなび」と「食べログ」の競争ですが1996年に「ぐるなび」がリリースされています。その後、2005年に「食べログ」が参入している。参入時に既に「ぐるなび」が高いシェアを獲得していた。ぐるなびが「飲食店の販売促進支援サイト」として広告主である飲食店側を重視していたのに対して食べログは「ランキングと口コミで探せるグルメサイト」として飲食店の利用者視点でサイトを開設しました。
項目7:今、事業に取り組む理由(Why now?)【必須】
新規事業ではタイミングが非常に重要です。なぜ今までそんな素晴らしいサービスが世の中になかったのか、なぜ今このサービスを開始するべきなのかを書きます。
例えば、Second Life(セカンドライフ)と言うサービス※がリリースされたのが2003年です。当時も話題になって私もアカウントをつくりました。しかし時期が早すぎたと言わざるを得ません。しかし2021年、旧Facebookが社名を「メタ(Meta)」に変更しマーク・ザッカーバーグCEOは、同社はこれから「metaverse(メタバース)」の会社に代わると宣言している。メタ(Meta)以外にもマイクロソフトなどもメタバース事業の強化を宣言している。
※3DCGで構成されたインターネット上に存在する仮想世界(メタバース)サービス
事業計画書の説得力を高めるポイント
伝えたい内容を絞る
事業への想いの強さから「これも伝えたい、あれも伝えたい」と情報を盛り込みたい気持ちになります。しかし聞き手が一度に咀嚼できる情報量には限界があります。事業計画書にまとめる際は、『必ず伝えなくてはいけない部分』と『相手の興味を惹きつけそうな部分』に絞り、メリハリのある内容を心がけるようにします。
自分たちしかしらない事業の秘密を用意する
「革新性のあるビジネスモデル」「しっかり検討された収支計画/販売やマーケティング戦略」「実績のあるチームメンバー」などが整理された事業計画書。でも何か物足りな。。。そんな事業計画書に足りないものが「自分たちしかしらない事業の秘密」だったりします。
検証で得られたユニークなデータ、ユーザーインタビューで得られた生の声、投資家や経営層は、そのような新規事業チームしか知らない事業の秘密と、それらのデータや情報に裏付けられた事業計画に魅力を感じてくれます。
ネガティブな質問への解答を用意しておく
事業計画書で新規事業の計画を説明していると「事業リスク」や「競合の優位性」などネガティブな質問を投げかけられることがあります。そんな時に焦って答えられないでいると「しっかり事業を検討できていないのではないか?」とマイナスの評価を受けてしまいます。
そこで重要なプレゼンの前までには想定問答を準備して落ち着いて論理的に説明ができるようにしましょう。
事業計画書の構成が決まったらプレゼンも意識する
事業計画書の目的にもよりますが事業計画書を使ってプレゼンテーションをすることがあるなら資料に書く内容と話す内容を意識しながら1スライド1メッセージで資料を作成します。
参考になる事業計画書(生の企画書)
必ずしも事業計画書ってわけではありませんが参考になる「生の企画書」をご紹介します。
暮らしの情報サイトnanapi
最初に紹介するのは『nanapi』です。事業計画書としてインターネットで「生の企画書」が見れる中では参考になると思います。
※『nanapi』はKDDIグループに事業売却されて現在はサービス自体をクローズしてしまっているようです。『nanapi』のKDDIへの売却の背景などは創業者の古川健介さんがインタビューで語っています。インタビュー記事はコチラ
ピクスタ(マザーズ上場企業)
次にご紹介するのが現在はマザーズに上場している『ピクスタ』です。『ピクスタ』は500万点を超える写真やイラストなどの素材が購入できるストックフォト販売サービスを運営しています。ビジネスモデルとしてはカメラマンやイラストレーターのような制作者が写真やイラストを登録して、素材が必要な出版社や企業が購入するためのプラットフォームを提供しています。
こちらの企画書は、シードファイナンス用の資料で、企画の説明にとどまらず、市場分析、ターゲットとなる人たちの声、マーケティング施策なども補足資料として付いていて非常に参考になります。
まとめ
今回は「事業企画書を作るコツ」を事例などを紹介しながら徹底解説させていただきました。
新規事業では役員や投資家などに「この事業は良い」と思わせなければ承認や出資は得られません。また事業や市場を俯瞰してみることで新たな気づきが得られることもあります。
是非、何度も読み返して活用してもらえたら嬉しいです。
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